2016年11月12日土曜日

都電本ガイド(2)都電60年の生涯

(東京都交通局・編、1971年)

東京市電気局発足60周年と、間近に迫った都電全路線撤去(この時点では、現在の荒川線に相当する区間も廃止対象に含まれていました)を記念して交通局が制作した、初の大型写真集です。

私はごく最近ネットオークションで自分のものにしましたが、10代の頃は図書館で何度も見ていました。182ページ掲載の「都電廃止への道のり」の冒頭、

<引用>
「人間はいろいろのものを創造してきた。そして新しいものが創造されるたびに、ふるいものは滅びていった。この意味からすれば、都電もつくられたときに撤去という宿命をもっていたといえる。」

<引用終了>

は、当時の私の心に深く刻まれる言葉でした。私事ですが、この本を図書館で読んでいた当時は家では毎日怒鳴られ殴られ、学校では陰湿ないじめに遭い嘲笑され、という境遇だったことに加えて「ノストラダムスの大予言」が生きていましたから、30代半ばまでの人生設計をしておけばそれで十分と考えていました。
この書き出しもまた、その考え方を後押しするものでした。
今になって読み返すと、この文章の「都電」を「新幹線」や「リニア」に置き換えて、某鉄道会社に謹んで捧げたくなってきます。
ただし、この文章でも志村線に関する記述には誤りがみられました。


アド・クリエーツという、おそらくは交通局と契約していると思われる出版企画会社がデザインを担当していますが、今の目で見ると写真のコントラストが全体的に強すぎて、黒い部分がどぎつい感じです。

サトウハチローさん、高田敏子さんなど詩人からの寄稿や、早朝から深夜までの乗務員たちの姿の記録は、後年の写真集ではみられません。現役当時ならではの表現でしょう。

その一方で後年の「棄景」を思わせる解体現場、まだ劣化していない頃の保存車両の姿、他都市へ譲渡される車両移動の現場、五稜郭駅前発どっく前行きの10系統など、都電としての走行場面以外の写真のほうがむしろ存在感を見せています。

(注)五稜郭駅前発どっく前行きは本来「4系統」で、1978年(昭和53年)1031日まで運転されていました。10系統は途中経路を変える臨時便だったそうです。


一般の人からも募ったとおぼしき「市電・都電の思い出」寄稿掲載コーナーもあります。交通局は最近(2016年)も同種の企画を立てているようですが、入選作品と読み比べることも一興かもしれません。

図書館の蔵書では外されていましたが、現在手元にある本には電車唱歌を収録したソノシートがついています。もちろん再生できる装置を持ち合わせておりません。
横浜市電廃止記念写真集引換券(未使用)もなぜかついていました。