2016年11月8日火曜日

都電本ガイド(6)おもいでの都電 ●

(林順信、諸河久・著、保育社、1986年)

保育社で長年出版していた文庫サイズの写真本「カラーブックス」シリーズの書籍です。「都電百景百話」および「東京・市電と街並み」(小学館、1983年)のコンパクト版と位置づけられるでしょう。

戦後の全41系統について代表的な走行風景を選び、簡潔な解説をつけています。なるべくカラー写真を多く採用していることも、当時としては新鮮でした。16系統本郷三丁目の、それこそ真っ赤なインクを流しているような夕暮れの写真は鮮烈な印象を与えます。


この本ではグラビアページが終わってからも、かなり中身の濃いお話が続きます。特に系統番号制度の変遷は充実していて、1922年(大正11年)実施の車庫番号+路線を示す二桁・三桁番号制の表、42系統まであった1929年(昭和4年)の系統表、整理統合された1931年(昭和6年)版、他社線買収などでまた増えていった1944年(昭和19年)版などは交通局の資料でも揃えられていないため、たいへん貴重です。明治時代の市営化以前、三社時代の路線略図も役立ちます。

しかし、残念ながら誤記もみられます。
1944年(昭和19年)の表に「19系統・巣鴨車庫-西銀座」と記されていますが、「西銀座」という名称の停留場は市電・都電の歴史上存在していなかったとみられます。(「日本鉄道旅行地図帳」データによる。)営団地下鉄丸ノ内線の開通当時の駅名です。

市電では土橋線に「銀座西六丁目」が存在していましたが、本表で意図している停留場は「数寄屋橋」のことではないかと推定されます。 

私はこの本で18系統19678月末廃止説を初めて知り、当時から驚いていましたが、よく見れば昭和42年度廃止・短縮路線総計の数字と合っていません。その面からも誤りとわかります。